複雑な式を工夫して展開する方法を解説します.
● 置き換え ●
例えば,
\((a-b-c+d)(a-b+c-d)\)
を展開した結果を 「公式」 として知っていたら, 変態だ.
そんなものはふつう知らん.
しかし, ちょっとした変形で誰もが知っている公式 の形に持ち込むことはできる.
式の \(2\) つの \((\ \ \ \ )\) 内の同じ文字を比べて, 逆符号になっているところをチェック しよう.
\((a-b\underline{-c+d})(a-b\underline{+c-d})\)
\(1\) 個目の \((\ \ \ \ )\) 内の \(\underline{-c+d}\) は,
マイナスを前に出して \(-(\color{magenta}{c-d})\) と変形できるよね.
\(2\) 個目の \((\ \ \ \ )\) の中にある \(\color{magenta}{c-d}\) と同じ形をつくったんだ.
そしてもともと \(\color{teal}{a-b}\) が共通に含まれていて, それをかたまりとみなすと,
\(\{(\color{teal}{a-b})-(\color{magenta}{c-d})\}\{(\color{teal}{a-b})+(\color{magenta}{c-d})\}\)
ここで, \(\color{teal}{a-b=A}\), \(\color{magenta}{c-d=B}\) と 置き換える と,
\((\color{teal}{A}-\color{magenta}{B})(\color{teal}{A}+\color{magenta}{B})\)
これが \(\color{teal}{A}^2-\color{magenta}{B}^2\) と展開できるのはすでにお茶の間で有名だ.
このように, 式の中のある部分を \(\color{red}{1}\) 文字とみなす, あるいは \(\color{red}{1}\) 文字に置き換えると,
乗法公式なんかが使えて展開が楽 にできることがある.
● 順序変更 ●
\(5-3=2\)
と
\(3-5=-2\)
を比べたらわかるように,
引き算は数の順序を入れ替えると計算結果が逆符号になる.
つまり,
\(\large\color{blue}{A-B=-(B-A)}\)
だ.
一方, 足し算や掛け算は, 順序を入れ替えても計算結果は変わらない.
\(\large\color{blue}{A+B=B+A}\)
\(\large\color{blue}{AB=BA}\)
このことを 「交換法則が成り立つ」 というんだ.
数や式の順序を変更することによって展開しやすくなることがある.
例えば,
\((a+b)(b-a)\)
の展開は, \(1\) 個目の \((\ \ \ \ )\) 内の 足し算の順序を入れ替えて
\((\color{red}{a+b})(b-a)\)
\(=(\color{red}{b+a})(b-a)\)
\(=b^2-a^2\)
とできる.
あるいは \(2\) 個目の \((\ \ \ \ )\) 内の 引き算の順序を入れ替えて
\((a+b)(\color{red}{b-a})\)
\(=(a+b)\{\color{red}{-(a-b)}\}\)
\(=\color{red}{-}(a+b)(\color{red}{a-b})\)
\(=-(a^2-b^2)\)
\(=-a^2+b^2\) \((=b^2-a^2)\)
としてもいいね.
さて,
\((a^2+b^2)(a+b)(a-b)\)
の展開はどうする?
前から順に \((a^2+b^2)(a+b)\) の部分から展開するのはめんどくさそうなので,
掛け算の順序を変更して
\((a^2+b^2)(a+b)(a-b)\)
\(=(a+b)(a-b)(a^2+b^2)\)
\(=(a^2-b^2)(a^2+b^2)\)
\(=a^4-b^4\)
\(((A-B)(A+B)=A^2-B^2\) で \(A=a^2\), \(B=b^2)\)
あるいは, 後ろのほうから展開していく と考えても同じだ.
\((a^2+b^2)\color{red}{(a+b)(a-b)}\)
\(=(a^2+b^2)\color{red}{(a^2-b^2)}\)
\(=a^4-b^4\)
● 指数法則 ●
\(A\) と \(B\) を \(2\) 個ずつ掛けた \(A^2B^2\) は,
\(AB\) を \(2\) 回掛けた \((AB)^2\) と同じだ.
\(\large\color{blue}{A^2B^2}\)
\(=A \cdot A \cdot B \cdot B\)
\(=AB \cdot AB\)
\(\large\color{blue}{=(AB)^2}\)
\(3\) つの積でも同様に,
\(\large\color{blue}{A^2B^2C^2=(ABC)^2}\)
\(3\) 乗でも同様に,
\(\large\color{blue}{A^3B^3C^3=(ABC)^3}\)
となるね.
こういうのを \(\large\bf\color{blue}{指数法則}\) (\(\rm{exponential\ law}\)) というんだ.
指数とは, 数や式の右肩に小さくついた累乗を表す数のことで,
その計算のルールが指数法則ね.
次の例もその \(1\) つだ.
\(A^2\) を \(3\) 回掛けると, \(A\) を合計 \(6\) 回掛けたことになる.
\(\large\color{blue}{(A^2)^3}\)
\(=A^2 \cdot A^2 \cdot A^2\)
\(=A \cdot A \cdot A \cdot A \cdot A \cdot A\)
\(\large\color{blue}{=A^6}\)
一般に, \(m\), \(n\) を正の整数として,
\(\large\color{blue}{(A^m)^n=A^{mn}}\)
指数法則をうまく使うことで, 展開がスムーズになることがある.
例えば,
\((a+b)^2(a-b)^2\)
なんかを計算するときは, まず前後の \((\ \ \ \ )\) をそれぞれ展開して
\((a^2+2ab+b^2)(a^2-2ab+b^2)\)
\(= \cdots \)
とするのはこの上なく めんどくさい.
ところが,
\(\large\color{blue}{A^2B^2=(AB)^2}\)
を使って
\(\color{red}{(a+b)^2(a-b)^2}\)
\(\color{red}{=\{(a+b)(a-b)\}^2}\)
\(=(a^2-b^2)^2\) \((\)\(\{\ \ \ \ \}\) の中だけを展開した\()\)
\(=a^4-2a^2b^2+b^4\)
とすれば, 計算の大幅なショートカットだ.
Point <展開の工夫> ★★★
\(\large\bf\color{blue}{乗法公式}\) が使えるように変形.
\([1]\) \(\large\bf\color{blue}{置き換え}\)
\([2]\) \(\large\bf\color{blue}{順序変更}\)
\([3]\) \(\large\bf\color{blue}{指数法則}\)
■ 例題 ■ <複雑な式の展開>
次の式を展開せよ.
\((1)\) \((a-b-c+d)(a-b+c-d)\)
\((2)\) \((a^4+b^4)(a^2+b^2)(a+b)(a-b)\)
\((3)\) \((a-2b)^2(a+2b)^2\)
\((1)\) 高知工科大
\((3)\) 北海道工業大
SPONSORED LINK
■ 解答 ■
\((1)\)
\((a-b-c+d)(a-b+c-d)\)
\(=(a-b\underline{-c+d})(a-b\underline{+c-d})\)
\(=\{(a-b)\underline{-(c-d)}\}\{(a-b)\underline{+(c-d)}\}\)
\(=(a-b)^2-(c-d)^2\)
\(=a^2-2ab+b^2-(c^2-2cd+d^2)\)
\(=a^2+b^2-c^2-d^2-2ab+2cd\) \(\cdots\) (答)
\((2)\)
\((a^4+b^4)(a^2+b^2)(a+b)(a-b)\)
\(=(a^4+b^4)(a^2+b^2)(a^2-b^2)\)
\(=(a^4+b^4)(a^4-b^4)\)
\(=a^8-b^8\) \(\cdots\) (答)
\((3)\)
\((a-2b)^2(a+2b)^2\)
\(=\{(a-2b)(a+2b)\}^2\)
\(=(a^2-4b^2)^2\)
\(=a^4-8a^2b^2+16b^4\) \(\cdots\) (答)
■ 練習 ■ <複雑な式の展開>
次の式を展開せよ.
\((1)\) \((1+x-x^2-x^3)(1-x-x^2+x^3)\)
\((2)\) \((x-1)(x+1)(x^2+1)\) \((x^2+\sqrt{2}x+1)(x^2-\sqrt{2}x+1)\)
\((3)\) \((a-b)^3(a+b)^3(a^2+b^2)^3\)
\((1)\) 名古屋経済大
\((2)\) 摂南大 (薬)
\((3)\) 大阪工業大
SPONSORED LINK